2006年12月6日水曜日

角砂糖と脱脂綿

自転車で派手に転んで怪我をした僕を家に招きいれたその人は、コーヒーを沸かしはじめた。
膝や肘、あちこちから血を滲ませたまま、僕はソファーでその様子を見ていた。
怪我を消毒してくれる気配はない。鼻唄をうたいながら、のんびりコーヒーの支度をしている。

出来上がったコーヒーは二つのカップと一つの小さなボールに注がれた。
角砂糖と、脱脂綿が運ばれてきた。
そして、ボールに入ったコーヒーに脱脂綿を浸した。コーヒーで、その人は僕のキズを洗いはじめたのだ。
不思議と染みなかった。じんわりと温かく、撫でられているようだった。
ピンセットを持つ長い指をぼんやりと見ながら、僕はコーヒー消毒に身を任せていた。

あの人は本物の魔女だったのかもしれない。
怪我は翌朝起きると、かさぶたさえ残っていなかったから。