懸恋-keren-
超短編
2006年12月31日日曜日
新しい年
「古い年に、乾杯」
喫茶店の片隅で私たちはこっそりとコーヒーカップを当てて乾杯した。
私たちに新しい年は祝えない。古い年ばかりが愛おしい。
良すぎる記憶力に「思い出を美化する」というプログラムを組み込んだ初めての一年、人間の恋人たちを真似しながら二人で必死に思い出を作った。
塩水は機械に悪いのに、無理して海水浴にも行った。
これから一年はその思い出を語り合ううちに過ぎてしまうだろう。いや、過ぎることになっている。
私は合金製の小指を彼に絡めながら、ちょうど一年前の思い出の出力をはじめる。
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