懸恋-keren-
超短編
2006年12月29日金曜日
いつもと違う足音
電車の床はコーヒーで水浸しだった。
乗るのを躊躇ったが、どうやら別の車両でも状況は同じらしい。あきらめて乗り込む。車内は空いている。
もはや汚水のような風情で床に撒き散らされているが、香りはしっかりとコーヒーを主張していた。
ほかの乗客たちはコーヒーで濡れた床に頓着していないようだ。
革靴もピンヒールも迷いなくコーヒーの中を闊歩している。
私のように抜き足差し足で歩いている者は見当たらない。
ストッキングのふくらはぎにコーヒーをぴちゃぴちゃと跳ね飛ばしながら歩く女がいて、やけに卑猥だった。
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