摩耶の歌声を発見したのはションヴォリ氏、その人だった。
まだションヴォリ氏のガールフレンドが摩耶ではなく、彼女の母だったころのことである。
摩耶はいつもいつもパクパク口を動かしているのだった。
ションヴォリ氏は摩耶に問うた。
「マヤ、なにをしているんだ?」
「おうたをうたってるの」
この問答は何度も繰り返された。
だが、ションヴォリ氏には何も聞こえない。
「マヤ。マヤの歌、聞こえないよ。もっとよく聞こえるように大きな声で歌っておくれ」
摩耶は悲しそうな顔をした。
ションヴォリ氏は耳に手をやり、摩耶の口元に近づけた。
「ああ、少し聞こえてきたよ。摩耶の声は小さいね」
ションヴォリ氏は耳に持ってきていた手をはずした。
すると、摩耶の歌は全く聞こえなくなったのだ。
ションヴォリ氏は摩耶に歌い続けるように言い、自分の手を耳に近づけたり遠ざけたり、何度も試した。
「ナムサン!この子の歌声は聞く者が耳を塞いで初めて聞こえるのだ」
そしてションヴォリ氏は摩耶を暗く静かな場所にある、
つまり一番繁盛していない喫茶店に連れていき舞台に立たせることにしたのだった。