「やあ! キナリ。どこ行くの?」
長い名の絵かきが少女に声を掛けた。しかし、少女は返事をしない。
「こんばんは、キナリ。今夜も広場でラッパを吹くよ。来てくれるかい?」
背の低いコルネット吹きが少女を呼ぶ。しかし、少女は返事をしない。
「キナリ!こんな所にいたのか」
月が少女と並んで歩き始める。だが少女は無言のまま。
「おい?キナリ、どうしたんだ?具合が悪いのか?」月が肩を揺さぶる。
「キナリって誰」
「誰って、自分の名前がわからないのか!?」
〔落とし物だ〕
しっぽを切られた黒猫が駆け寄って来た。黒猫に差し出された小さな箱を受け取る。
「あ、ナンナルだ」
「キナリ?わかるか?……あぁ、よかった。その箱は何が入っているのだ?」
「ヘソノオ」