2005年4月11日月曜日

みんなで遊ぼう

 五月、午後の太陽は元気だ。冬のようにさびしくはない。冬の西日を浴びた影はぼくまでブルーにするからあまり遊ばせられないけど、今は違う。だからぼくは、影を放してやる。晴れた日は心置きなく遊ばせる。五月の強く明るい西日をいっぱいに浴びて帰ってきた影は、ぼくをウキウキさせる。影にもぼくにもいい季節だ。
影はご機嫌で帰ってくると、一緒に遊んだ影のことや変わった影のことを話してくれる。影たちがすごいのは、大人も子供も動物も植物も物も、みんな仲良く遊べるらしい、ということだ。猫の影の悩み事を聞いてやったとか、ケヤキの影と鬼ごっこをしたとか、信号機の影は頑固だ、と聞くとちょっと影がうらやましくなる。
いつもはそんな風にいろんな話をするのに、きのうは黙ってすぐに寝てしまった。こんなことは今まで一度もなかった。ぼくは本当に心配になった。影は影のくせにぼくよりずっと明るい性格なのだ。押し黙っている影は、十二年の人生ではじめてだ。
だから今日、ぼくは影を尾行することにした。影は目的地を決めているようで、ぐんぐん進んで行った。何度か散歩中の犬の影に懐かれていたけれど、すぐに振り切って進んでいく。そしてある家の前で止まった。あれ?ここは…!ぼくは影の前に飛び出した。
「エリちゃんと遊ぶのは、ぼくだ!」
家から出てきたエリちゃんも、エリちゃんの影もポカンとしている。影は笑い出した。エリちゃんではなく、エリちゃんの影と遊びたかったんだから、と。
でも、そのおかげで明日の夕方、エリちゃんと遊ぶ約束をした。ぼくの影もエリちゃんの影も、一緒に遊ぼう。みんなで遊ぼう。

きららメール小説大賞投稿作