「やあ! キナリ。どこ行くの?」
長い名の絵かきが少女に声を掛けた。しかし、少女は返事をしない。
「こんばんは、キナリ。今夜も広場でラッパを吹くよ。来てくれるかい?」
背の低いコルネット吹きが少女を呼ぶ。しかし、少女は返事をしない。
「キナリ!こんな所にいたのか」
月が少女と並んで歩き始める。だが少女は無言のまま。
「おい?キナリ、どうしたんだ?具合が悪いのか?」月が肩を揺さぶる。
「キナリって誰」
「誰って、自分の名前がわからないのか!?」
〔落とし物だ〕
しっぽを切られた黒猫が駆け寄って来た。黒猫に差し出された小さな箱を受け取る。
「あ、ナンナルだ」
「キナリ?わかるか?……あぁ、よかった。その箱は何が入っているのだ?」
「ヘソノオ」
2005年4月30日土曜日
2005年4月28日木曜日
ガス灯とつかみ合いをした話
「あ、あのガス灯切れてる」
少女と月が夜道を歩いていると、一本の切れたガス灯を見つけた。
「どれ、私が見てみよう」
月がガス灯にしがみついてスルスルと登りはじめると、街灯は暴れはじめた。
「な、なんだ。修理してやるだけだぞ」
それでもガス灯が暴れるので、月は力尽くで抑え込む。
「待って、ナンナル。ガス灯が泣いてる。壊れてないから構うな、って。今夜は静かにしていたい気分なんだよ、きっと」
月が降りると、ガス灯はパッパと点滅した。
「どういたしまして」
「キナリ、ガス灯の言うことがわかったのか?」
「ナンナル、飴あげる」
少女と月が夜道を歩いていると、一本の切れたガス灯を見つけた。
「どれ、私が見てみよう」
月がガス灯にしがみついてスルスルと登りはじめると、街灯は暴れはじめた。
「な、なんだ。修理してやるだけだぞ」
それでもガス灯が暴れるので、月は力尽くで抑え込む。
「待って、ナンナル。ガス灯が泣いてる。壊れてないから構うな、って。今夜は静かにしていたい気分なんだよ、きっと」
月が降りると、ガス灯はパッパと点滅した。
「どういたしまして」
「キナリ、ガス灯の言うことがわかったのか?」
「ナンナル、飴あげる」
2005年4月27日水曜日
2005年4月26日火曜日
TOUR DU CHAT-NOIR
〔キナリ〕
しっぽを切られた黒猫が少女を呼ぶ。
「なに?」
〔今夜、集会がある〕
「集会?」
〔黒猫の集会〕
「キナリも行きたい」
〔それはあんたが決めることだ〕
黒猫は、いつもの倍のミルクを飲み、いつもの倍、毛繕いをして出て行った。
少女は後を追う。黒猫が塀に上がれば、同じようにした。穴をくぐれば、同じようにした。
公園には、何百もの黒猫が集っていた。太ったのや痩せたの、しっぽが長いのや短いの、片目が潰れたのや足を引きずるもの、あらゆる黒猫がいたが、しっぽを切られた猫は一匹だけである。少女はブランコに腰掛け、黒猫たちの様子を眺める。
やおら一匹の黒猫が一匹の黒猫の背中に飛び乗った。その上にまた一匹が飛び乗る。さらにその背中に一匹。
それは何百回と繰り返され、最後にしっぽを切られた黒猫が飛び上がった。それを見て、少女は鬼のアパートへ向かって駆け出した。
最上階の鬼の部屋の窓から見上げても、頂点は見えない。
「ヌバタマ~!」
少女が叫ぶと、黒猫の目が一斉に光った。
しっぽを切られた黒猫が少女を呼ぶ。
「なに?」
〔今夜、集会がある〕
「集会?」
〔黒猫の集会〕
「キナリも行きたい」
〔それはあんたが決めることだ〕
黒猫は、いつもの倍のミルクを飲み、いつもの倍、毛繕いをして出て行った。
少女は後を追う。黒猫が塀に上がれば、同じようにした。穴をくぐれば、同じようにした。
公園には、何百もの黒猫が集っていた。太ったのや痩せたの、しっぽが長いのや短いの、片目が潰れたのや足を引きずるもの、あらゆる黒猫がいたが、しっぽを切られた猫は一匹だけである。少女はブランコに腰掛け、黒猫たちの様子を眺める。
やおら一匹の黒猫が一匹の黒猫の背中に飛び乗った。その上にまた一匹が飛び乗る。さらにその背中に一匹。
それは何百回と繰り返され、最後にしっぽを切られた黒猫が飛び上がった。それを見て、少女は鬼のアパートへ向かって駆け出した。
最上階の鬼の部屋の窓から見上げても、頂点は見えない。
「ヌバタマ~!」
少女が叫ぶと、黒猫の目が一斉に光った。
2005年4月25日月曜日
AN INCIDENT IN THE CONCERT
「友達があっちの広場でラッパを吹いてるんだ」
長い名の絵かきとともに広場に行くと、少女といくらも変わらない程の背丈の男が、銀色のコルネットを吹いていた。足元には空の小さなトランク。
「やあ!プキサ!その子がキナリだね?はじめまして。ぼくの名前はチョット・バカリー」
「こんばんは。チョット・バカリー。不思議な名前」
「あなたもね」
挨拶が済むと、再び小さな男はコルネットを吹きだした。その音色を聞いた少女は、お気に入りのマグカップに作ったココアを思った。
「あ!ヌバタマ!」
いつの間にかしっぽを切られた黒猫が後ろ脚で立ち、小さな男の周りで踊っている。トランクは、硬貨が山盛りである。
少女と絵かきの他、観客は誰もいない。
長い名の絵かきとともに広場に行くと、少女といくらも変わらない程の背丈の男が、銀色のコルネットを吹いていた。足元には空の小さなトランク。
「やあ!プキサ!その子がキナリだね?はじめまして。ぼくの名前はチョット・バカリー」
「こんばんは。チョット・バカリー。不思議な名前」
「あなたもね」
挨拶が済むと、再び小さな男はコルネットを吹きだした。その音色を聞いた少女は、お気に入りのマグカップに作ったココアを思った。
「あ!ヌバタマ!」
いつの間にかしっぽを切られた黒猫が後ろ脚で立ち、小さな男の周りで踊っている。トランクは、硬貨が山盛りである。
少女と絵かきの他、観客は誰もいない。
2005年4月24日日曜日
2005年4月23日土曜日
THE WEDDING CEREMONY
教会から、黒いドレスを来た女が出てきた。
手には赤いバラだけで出来たブーケ。
「お嬢ちゃん、これ受け取ってくれるかしら?」
少女は少し驚き、隣の月を仰ぎ見る。
「もらえばいい」
月がそう言うと、少女はバラのブーケを受け取った。
「結婚したのよ」
女が微笑む。
「おめでとう、夫君は…吸血鬼氏だね」
月が言う。女が頷く。
「キナリ、そのブーケは大切にするのだぞ。生き血を吸ったバラは、何百年と美しさを保つ」
少女は満面の笑顔で女に言った。
「ありがとう、大事にする」
女は一粒朱い涙を落とした。
手には赤いバラだけで出来たブーケ。
「お嬢ちゃん、これ受け取ってくれるかしら?」
少女は少し驚き、隣の月を仰ぎ見る。
「もらえばいい」
月がそう言うと、少女はバラのブーケを受け取った。
「結婚したのよ」
女が微笑む。
「おめでとう、夫君は…吸血鬼氏だね」
月が言う。女が頷く。
「キナリ、そのブーケは大切にするのだぞ。生き血を吸ったバラは、何百年と美しさを保つ」
少女は満面の笑顔で女に言った。
「ありがとう、大事にする」
女は一粒朱い涙を落とした。
2005年4月21日木曜日
2005年4月20日水曜日
2005年4月18日月曜日
2005年4月17日日曜日
ポケットの中の月
「キナリ、ポケットに手を入れていると、転んだとき危ないぞ」
「へへーん。ポケットの中にはお月さんが入っているんだよ」
少女はスボンのポケットに入れたまま右手を動かす。
「なんだって?!」
月は狼狽する。
「見たい?」
少女はニヤリとする。
「早く見せろ」
「どうしようかな」
少女がポケットの中で右手を動かす。月が顔を歪める。それを見てますます右手を動かしてみせる少女。
無言の攻防の後、ついに右手が引き出された。
「これだよ。オニにもらった」
少女の手の平には飴玉がひとつ。
包み紙には小さな文字。
〔candy‐moonひと粒で月まで飛んじゃうおいしさ!りんご味〕
「へへーん。ポケットの中にはお月さんが入っているんだよ」
少女はスボンのポケットに入れたまま右手を動かす。
「なんだって?!」
月は狼狽する。
「見たい?」
少女はニヤリとする。
「早く見せろ」
「どうしようかな」
少女がポケットの中で右手を動かす。月が顔を歪める。それを見てますます右手を動かしてみせる少女。
無言の攻防の後、ついに右手が引き出された。
「これだよ。オニにもらった」
少女の手の平には飴玉がひとつ。
包み紙には小さな文字。
〔candy‐moonひと粒で月まで飛んじゃうおいしさ!りんご味〕
2005年4月15日金曜日
2005年4月14日木曜日
2005年4月13日水曜日
押し出された話
その晩、長い名の絵かきの姿はなかった。イーゼルもキャンバスも絵の具も椅子も、いつもの場所にある。
「プキサはどこに行ったのだろう、大事な道具も置きっぱなしで…椅子はまだ温かいな。キナリ、プキサはまだ近くにいるはずだ。捜そう」
月と少女は辺りを見回す。
「あ!」
「見つけたか?」
「ナンナル!大変だよ!ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサはこのチューブの中だよ!」
イエローのチューブが膨れあがり、もぞもぞと動いている。
月と少女はパレットに黄色い絵の具を慎重に押し出した。中の絵かきを潰さないように。
絵の具がなくなって、最後に絵かきが出てきた。
「ありがとう、ありがとう」
絵かきは全身黄色のまま言った。
「でも黄色の絵の具がなくなっちゃったよ」
パレットの山盛りイエローを差し出して少女が言う。
絵かきは笑った。
「大丈夫!見て、今夜は満月だ。みんなで月を描こうよ」
「プキサはどこに行ったのだろう、大事な道具も置きっぱなしで…椅子はまだ温かいな。キナリ、プキサはまだ近くにいるはずだ。捜そう」
月と少女は辺りを見回す。
「あ!」
「見つけたか?」
「ナンナル!大変だよ!ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサはこのチューブの中だよ!」
イエローのチューブが膨れあがり、もぞもぞと動いている。
月と少女はパレットに黄色い絵の具を慎重に押し出した。中の絵かきを潰さないように。
絵の具がなくなって、最後に絵かきが出てきた。
「ありがとう、ありがとう」
絵かきは全身黄色のまま言った。
「でも黄色の絵の具がなくなっちゃったよ」
パレットの山盛りイエローを差し出して少女が言う。
絵かきは笑った。
「大丈夫!見て、今夜は満月だ。みんなで月を描こうよ」
2005年4月12日火曜日
2005年4月11日月曜日
みんなで遊ぼう
五月、午後の太陽は元気だ。冬のようにさびしくはない。冬の西日を浴びた影はぼくまでブルーにするからあまり遊ばせられないけど、今は違う。だからぼくは、影を放してやる。晴れた日は心置きなく遊ばせる。五月の強く明るい西日をいっぱいに浴びて帰ってきた影は、ぼくをウキウキさせる。影にもぼくにもいい季節だ。
影はご機嫌で帰ってくると、一緒に遊んだ影のことや変わった影のことを話してくれる。影たちがすごいのは、大人も子供も動物も植物も物も、みんな仲良く遊べるらしい、ということだ。猫の影の悩み事を聞いてやったとか、ケヤキの影と鬼ごっこをしたとか、信号機の影は頑固だ、と聞くとちょっと影がうらやましくなる。
いつもはそんな風にいろんな話をするのに、きのうは黙ってすぐに寝てしまった。こんなことは今まで一度もなかった。ぼくは本当に心配になった。影は影のくせにぼくよりずっと明るい性格なのだ。押し黙っている影は、十二年の人生ではじめてだ。
だから今日、ぼくは影を尾行することにした。影は目的地を決めているようで、ぐんぐん進んで行った。何度か散歩中の犬の影に懐かれていたけれど、すぐに振り切って進んでいく。そしてある家の前で止まった。あれ?ここは…!ぼくは影の前に飛び出した。
「エリちゃんと遊ぶのは、ぼくだ!」
家から出てきたエリちゃんも、エリちゃんの影もポカンとしている。影は笑い出した。エリちゃんではなく、エリちゃんの影と遊びたかったんだから、と。
でも、そのおかげで明日の夕方、エリちゃんと遊ぶ約束をした。ぼくの影もエリちゃんの影も、一緒に遊ぼう。みんなで遊ぼう。
きららメール小説大賞投稿作
影はご機嫌で帰ってくると、一緒に遊んだ影のことや変わった影のことを話してくれる。影たちがすごいのは、大人も子供も動物も植物も物も、みんな仲良く遊べるらしい、ということだ。猫の影の悩み事を聞いてやったとか、ケヤキの影と鬼ごっこをしたとか、信号機の影は頑固だ、と聞くとちょっと影がうらやましくなる。
いつもはそんな風にいろんな話をするのに、きのうは黙ってすぐに寝てしまった。こんなことは今まで一度もなかった。ぼくは本当に心配になった。影は影のくせにぼくよりずっと明るい性格なのだ。押し黙っている影は、十二年の人生ではじめてだ。
だから今日、ぼくは影を尾行することにした。影は目的地を決めているようで、ぐんぐん進んで行った。何度か散歩中の犬の影に懐かれていたけれど、すぐに振り切って進んでいく。そしてある家の前で止まった。あれ?ここは…!ぼくは影の前に飛び出した。
「エリちゃんと遊ぶのは、ぼくだ!」
家から出てきたエリちゃんも、エリちゃんの影もポカンとしている。影は笑い出した。エリちゃんではなく、エリちゃんの影と遊びたかったんだから、と。
でも、そのおかげで明日の夕方、エリちゃんと遊ぶ約束をした。ぼくの影もエリちゃんの影も、一緒に遊ぼう。みんなで遊ぼう。
きららメール小説大賞投稿作
ペロペロキャンディー
「毎日来てますよ、ね?」
休憩時間にいつものコーヒーショップに入ろうとして、店から出てきた女に呼び止められた。
「はあ」
そんなふうに女性に声をかけられるのは、はじめてだった。毎日、と言われても女の顔には覚えがなかった。真ん中に分けられた髪の毛から細い束が二本、つんと尖った鼻まで垂れていた。触角みたいだ、と思った。両手に持った紙コップのうち右手だけをちょっとだけ挙げて「これ、あなたの分です」と言った。
ベンチに座ると女はカバンからケースに入った細いストローを出した。ストローはクルクルと巻かれていて、それは何十年かぶりに「ペロペロキャンディー」を思い起こさせた。このストローじゃないとうまく飲めないのだ、と巻かれたストローをほどきながら女は説明した。
おれは黙って女の買ったコーヒーを飲んだ。隣で真剣な面持ちでストローをくわえる女の横顔を盗み見しながら。まつげが長かった。
女はゆっくりだが一息でコーヒーを飲み終えた。
「じゃあ、また」
女は細い前髪をひくひくと揺らしながら去っていった。
女の座っていた所には尻の形に粉が落ちていた。おれは指でそれをなぞり、舐めた。何の味がしたわけではないが、結局全部舐めた。止められなかったのだ。
家に帰るなり妻が「蝶に化かされたのね」と言う。
なぜ、と問いながら、鼓動が速くなるのがわかる。妻は事もなげに「匂いでわかるし、あなたの目が潤んでいるから。鱗粉を舐めたでしょ?」と応じた。
「ねぇ、蝶さんはきれいだったでしょう?ずるいよね、男の人しか会えないんだもんね」と妻の目が光る。妻を抱き寄せながら、ペロペロキャンディーはどこで買えるだろうか、と考える。
きららメール小説大賞投稿作 最終30編
休憩時間にいつものコーヒーショップに入ろうとして、店から出てきた女に呼び止められた。
「はあ」
そんなふうに女性に声をかけられるのは、はじめてだった。毎日、と言われても女の顔には覚えがなかった。真ん中に分けられた髪の毛から細い束が二本、つんと尖った鼻まで垂れていた。触角みたいだ、と思った。両手に持った紙コップのうち右手だけをちょっとだけ挙げて「これ、あなたの分です」と言った。
ベンチに座ると女はカバンからケースに入った細いストローを出した。ストローはクルクルと巻かれていて、それは何十年かぶりに「ペロペロキャンディー」を思い起こさせた。このストローじゃないとうまく飲めないのだ、と巻かれたストローをほどきながら女は説明した。
おれは黙って女の買ったコーヒーを飲んだ。隣で真剣な面持ちでストローをくわえる女の横顔を盗み見しながら。まつげが長かった。
女はゆっくりだが一息でコーヒーを飲み終えた。
「じゃあ、また」
女は細い前髪をひくひくと揺らしながら去っていった。
女の座っていた所には尻の形に粉が落ちていた。おれは指でそれをなぞり、舐めた。何の味がしたわけではないが、結局全部舐めた。止められなかったのだ。
家に帰るなり妻が「蝶に化かされたのね」と言う。
なぜ、と問いながら、鼓動が速くなるのがわかる。妻は事もなげに「匂いでわかるし、あなたの目が潤んでいるから。鱗粉を舐めたでしょ?」と応じた。
「ねぇ、蝶さんはきれいだったでしょう?ずるいよね、男の人しか会えないんだもんね」と妻の目が光る。妻を抱き寄せながら、ペロペロキャンディーはどこで買えるだろうか、と考える。
きららメール小説大賞投稿作 最終30編
2005年4月10日日曜日
2005年4月8日金曜日
黒猫のしっぽを切った話
「ねぇ、ナンナル。あそこに黒い猫がいる」
「どこだ?あぁ、あそこか。まだ小さいな」
「あの猫と友達になる」
「ノラ猫だぞ、根気よく付き合わないと…」
月の話も聞かずに少女は黒猫に近付く。
猫の後から手を伸ばして尻尾を掴み、猫が暴れる暇もなく、ハサミで切り取った。
「キナリ!」
少女は黒い尻尾を振り回し、月に合図する。黒猫は少女の脚に頬を擦りつけている。
「ほら、仲良くなったよ。猫、名前は?」
[ヌバタマ]
「変な名前」
[あんたもな]
「どこだ?あぁ、あそこか。まだ小さいな」
「あの猫と友達になる」
「ノラ猫だぞ、根気よく付き合わないと…」
月の話も聞かずに少女は黒猫に近付く。
猫の後から手を伸ばして尻尾を掴み、猫が暴れる暇もなく、ハサミで切り取った。
「キナリ!」
少女は黒い尻尾を振り回し、月に合図する。黒猫は少女の脚に頬を擦りつけている。
「ほら、仲良くなったよ。猫、名前は?」
[ヌバタマ]
「変な名前」
[あんたもな]
2005年4月7日木曜日
SOMETHING BLACK
「今日は何を描きましょうか?お嬢さん」
長い名の絵かきがおどけて尋ねる。
「リンゴ」
少女が応える。
「かしこまりました」
絵かきは赤色の絵の具を筆に取る。キャンバスに浮かび上がるリンゴ。
絵かきは緑色の絵の具を筆に取る。キャンバスに浮かび上がる鳥。
「この鳥はリンゴが好きなんだね!もっと描いて!」
絵かきはリンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描いた。
「もっと描いて!」
絵かきはリンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描いた。
キャンバスに赤いリンゴと緑の鳥が溶け合う。
「見て、ナンナル」
「プキサに描いてもらったのか……まっくろけ、だな」
「リンゴと鳥だよ」
長い名の絵かきがおどけて尋ねる。
「リンゴ」
少女が応える。
「かしこまりました」
絵かきは赤色の絵の具を筆に取る。キャンバスに浮かび上がるリンゴ。
絵かきは緑色の絵の具を筆に取る。キャンバスに浮かび上がる鳥。
「この鳥はリンゴが好きなんだね!もっと描いて!」
絵かきはリンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描いた。
「もっと描いて!」
絵かきはリンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描き、リンゴを描き、鳥を描いた。
キャンバスに赤いリンゴと緑の鳥が溶け合う。
「見て、ナンナル」
「プキサに描いてもらったのか……まっくろけ、だな」
「リンゴと鳥だよ」
2005年4月6日水曜日
2005年4月4日月曜日
ある晩の出来事
ある晩、長い名の絵かきが公園を通ると、少女がブランコに座って泣いていた。
「……キナリ?キナリ、どうしたんだい?こんなところで。…嫌なことがあるなら、話してごらんよ」
少女は顔あげ、絵かきとわかると口を開いた。
「……ピ、ピベラ・デュオガひっく、ハソ・ヘリンスセカ・ド・ずず、ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ふ、ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプンふふふ、ケルセプニューナ・ド・リあは、シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウあはは、ベリンセカ・プキサ!!」
少女は笑い出した。
「えへへ、ぼくの名前を言ってるうちに楽しくなっちゃったね。どうして泣いてたの?」
「……なんだっけ?」
二人はアップルタイザーで乾杯した。
この晩は、新月だった。
「……キナリ?キナリ、どうしたんだい?こんなところで。…嫌なことがあるなら、話してごらんよ」
少女は顔あげ、絵かきとわかると口を開いた。
「……ピ、ピベラ・デュオガひっく、ハソ・ヘリンスセカ・ド・ずず、ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ふ、ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプンふふふ、ケルセプニューナ・ド・リあは、シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウあはは、ベリンセカ・プキサ!!」
少女は笑い出した。
「えへへ、ぼくの名前を言ってるうちに楽しくなっちゃったね。どうして泣いてたの?」
「……なんだっけ?」
二人はアップルタイザーで乾杯した。
この晩は、新月だった。
2005年4月3日日曜日
月光鬼語
「あ、あそこに何か落ちてる。本だ」
少女が道端で拾った本には『月光鬼語』と書かれていた。
「ナンナル、何て読むの?」
「げっこうきご。……どうやら鬼の心得を書いたもののようだ。鬼が落としたのだろう。」
「オニ? じゃあ返しに行こう」
少女は月を従えてスタスタと歩き、まもなく四階建てのアパートにやって来た。
402号室のチャイムを鳴らす。
「ハーイ」
出てきた鬼は月がそれまで出会った鬼の中でも特に大きく白い角と濃い髭を持っていた。それは彼の鬼としての権威の強さを表している。
「これ、オニの本?」
「あら、やだ。こんな大事なもの落とすなんて。キナリちゃんにご馳走しなくちゃネ。もちろん、お月様もご一緒に」
少女と月は、鬼手づくりの焼きりんごを食べた。
帰り道。
「キナリがあんな大きな鬼と知り合いとは驚いたな」
「ん? どうして驚くの?」
まっすぐな目を向けられて、月は尋ねるのを諦めた。『月光鬼語』の第一章は「人間の子の調理法」である。
少女が道端で拾った本には『月光鬼語』と書かれていた。
「ナンナル、何て読むの?」
「げっこうきご。……どうやら鬼の心得を書いたもののようだ。鬼が落としたのだろう。」
「オニ? じゃあ返しに行こう」
少女は月を従えてスタスタと歩き、まもなく四階建てのアパートにやって来た。
402号室のチャイムを鳴らす。
「ハーイ」
出てきた鬼は月がそれまで出会った鬼の中でも特に大きく白い角と濃い髭を持っていた。それは彼の鬼としての権威の強さを表している。
「これ、オニの本?」
「あら、やだ。こんな大事なもの落とすなんて。キナリちゃんにご馳走しなくちゃネ。もちろん、お月様もご一緒に」
少女と月は、鬼手づくりの焼きりんごを食べた。
帰り道。
「キナリがあんな大きな鬼と知り合いとは驚いたな」
「ん? どうして驚くの?」
まっすぐな目を向けられて、月は尋ねるのを諦めた。『月光鬼語』の第一章は「人間の子の調理法」である。
2005年4月1日金曜日
A CHILDREN'S SONG
「満月だよ、ナンナル。一緒に踊ろう」
月は少女にお辞儀をして手を取る。
「せーの。ポッチッチ、ポッチッチ」
「待ってくれ。なんだ、そのポッチッチというのは」
「ワルツだよ、ワルツ知らないの?」
「ワルツは得意だ」
「じゃ、もう一度」
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
満月のもと、月は少女とワルツを踊る。
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
満月のもと、月は少女の歌に合わせてワルツを踊る。
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
月は少女にお辞儀をして手を取る。
「せーの。ポッチッチ、ポッチッチ」
「待ってくれ。なんだ、そのポッチッチというのは」
「ワルツだよ、ワルツ知らないの?」
「ワルツは得意だ」
「じゃ、もう一度」
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
満月のもと、月は少女とワルツを踊る。
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
満月のもと、月は少女の歌に合わせてワルツを踊る。
ポッチッチ、ポッチッチ、ポッチッチ
A PUZZLE
「お嬢さん、似顔絵を描いてあげよう」
月と夜の町を歩いていた少女は、路上の絵かきに呼び止められた。
「お嬢さんの名前は?」
「キナリ。絵かきさんは?」
「ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサ。長いでしょう?プキサって呼んで。皆そう呼ぶんだ」
長い名の絵かきが描いた少女の似顔絵を見て月は言った。
「なんだこれは!目も口も耳もバラバラだ。とても顔には見えない」
少女は絵を受け取ると、黙って破りはじめ、たちまち19片の紙屑になった。次にそれを、新しい画用紙にスラスラと並べ張り合わせた。
「すてき!見て、ナンナル、キナリとそっくりだよ。上手だね!ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサ、ありがとう!また遊びにくるよ!」
月は渋い顔で絵かきに硬貨を渡した。
月と夜の町を歩いていた少女は、路上の絵かきに呼び止められた。
「お嬢さんの名前は?」
「キナリ。絵かきさんは?」
「ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサ。長いでしょう?プキサって呼んで。皆そう呼ぶんだ」
長い名の絵かきが描いた少女の似顔絵を見て月は言った。
「なんだこれは!目も口も耳もバラバラだ。とても顔には見えない」
少女は絵を受け取ると、黙って破りはじめ、たちまち19片の紙屑になった。次にそれを、新しい画用紙にスラスラと並べ張り合わせた。
「すてき!見て、ナンナル、キナリとそっくりだよ。上手だね!ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサ、ありがとう!また遊びにくるよ!」
月は渋い顔で絵かきに硬貨を渡した。
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