見知らぬ少女に一輪の花を差し出された。くれるのかと問うと、こっくり頷いた。「ありがとう」と言った声が震えていたことに気づかれただろうか。少女は素裸に薄い布を一枚纏っただけの姿だった。
僕が花を受け取ると少女は無言で走り去った。真夏の日差しの下、裸同然の格好でいるくせに少女は日焼けしていないようだった。生白い尻が脳裏に焼きつく。
青い花だ。名前はわからない。花が好きな誰かに聞けばすぐにわかるのかもしれないが、名前がわからなくても困りはしないのだ。裸の女の子に貰った青い花、ただそれだけだ。
暑い中、青い色をした花は涼しげに見えた。心なしか茎を摘む指がひんやりと気持ちいい。ともすると摘む指に力を込めてしまいそうで、何度もそっと持ち直した。ぎゅっと摘んで花を傷めたら、少女に悪い気がした。
家に帰り、花器などひとつも持っていないから、素っ気のないグラスに水を注いで挿した。テーブルの上に置くと部屋が明るくなったような気がする。思えばこの部屋に植物があったことなど一度もないのだ。ついつい浮かれた気分になって、そのまま部屋中を掃除した。さっぱりとしたところで、あらためて青い花を眺め、満足する。
翌日、仕事から帰ると、家の中が異様に寒い。ぐっしょりと汗で濡れていたワイシャツが瞬時に冷える。冷房を消し忘れたのだろうか。鳥肌の立った腕を擦りながら、慌てて部屋へ入る。
るりひゅるり るりひゅるり
青い花が、霜を吐き出していた。テーブルもテレビも、霜がついて真っ白になっていた。グラスに入れた水はすでに空になっている。それでも花は霜を吐き出し続けていた。
「おじちゃん、おかえりなさい!」
振り返ると、凍った布団の中からあの少女が顔を出していた。
ビーケーワン怪談投稿作