懸恋-keren-
超短編
2007年7月12日木曜日
七月十二日 金のしるし
その本には金色のスタンプがあちらこちらに押されていた。
表紙にも、本文にも小口にも。
何のマークかはわからない。前の持ち主の蔵書印だろうか。
キラキラとまぶしい。なんだか偉そうだ。
そっと指先でなぞったら、あっさり金色は剥がれてしまった。跡形もなく。
どのスタンプも触るとするりと剥がれた。
前の持ち主の痕跡を取るような気持ちになって、次々とスタンプに触れていった。
気付くと私の手や腕が金色に輝いていた。
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