懸恋-keren-
超短編
2007年7月21日土曜日
七月二十一日 誰もいない靴屋で
埃の積もった靴が、息を潜めて並んでいた。
「セール」の赤い文字が、褪せている。
自動ドアが何の問題もなく開いたことが不思議だ。
もうこの靴屋から人間が消えてから、何年か経っているに違いない。
私は、細いヒールの靴を手に取って、思い切り息を吹き掛けた。
埃が飛ぶと、艶やかなエナメルが現れた。
その場で履き替えると、家から履いてきたくたびれたスニーカーに壱万円札を突っ込み、店を後にした。
靴音が高く響く。
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