懸恋-keren-
超短編
2007年7月1日日曜日
波立つ月
ちゃぷん
月を泳ぐ小さな魚がいた。
魚はただ一匹、広く黄色い月を泳ぐ。
魚は食べることを知らない。恋も知らない。
ただ、ここで泳ぐことが心地よいということだけを、知っていた。
魚は恋を知らないけれど、魚に恋する者はいた。
望遠鏡で月を、月の中までもを覗く少女がいた。
月は波立ち、飛沫は銀色に輝く。
「あ、魚が跳ねた」
少女の呟きは、魚には届かない。
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