コツン コツンコツン コツンと後方で不規則な足音がすることに気づいたのは百合ちゃんだった。
言い忘れていたが百合ちゃんは耳がいい。摩耶の歌声を耳栓なしで聞くことができるのだ。
自分の声がよく聞こえるせいか、百合ちゃんの声はやや小さい。
「ねぇ、主水くん、後に誰かいるみたい……」
「ん?なに?」
「うしろに」
「誰かいるの?シネマを見に行く人じゃない?」
「ううん、変な歩き方してるし……おかしな歌を歌ってるみたい……」
「見てきたほうがいい?」
「うん……」
主水くんはだいぶ前を歩いているションヴォリ氏と摩耶に声を掛けた。
(掃部くんの歩調に合わせていた主水くんたちは、ションヴォリ氏たちと離れてしまっていたのだ。)
「博士!少し待っててください」
「どうかしたのか、モンドくん」
「ちょっと後の様子を見てきます。時間はまだ32分44秒ありますから」
「ほいほい」