2004年1月13日火曜日

長助のこと

山菜売りの長助は毎朝早くに山へ入り、山菜を取り、昼前には町に出て売り歩く。
若い割に愛想のいい長助は町の奥さん連中にも人気があって、売り上げも安定していた。
贅沢さえ望まなければ、十分満足な暮しだった。
しかし、それは世を忍ぶ仮の姿であったのだ。
長助は隣国のスパイを探す一流忍者。
山を歩きながら、商売をしながら、夜の町を徘徊しながら、
スパイの気配が現れやしないかと全神経を研ぎ澄ませているのだ。
長助は特別な人間ではなかった。
真面目で優しい両親のもとで野山を駆け回って育ち、
将来は父の後を継いで鍛冶屋になるつもりでいた。
ところがその父が何者かに殺されたのである。長助10歳の秋のことだった。