超短編
「学者はこの図書館の本をどうやって書いたのでしょうか。一人で書くには膨大な数だと思うのですが」と、自動人形の司書に聞いてみた。「一部は学者本人が書きましたが、多くは自動人形が書きました」「口述筆記?」「いいえ。学者の声は聞き取り難く、学者本人も長く話すと調子を崩してしまいました」
残り少なくなった本を愛おしむようにして読む。読んだ本のことを日記に綴り、トイと語り合う日々が続く。司書も傍らで聞いている。当初は本の内容を忠実に書き残すべきとの想いもあったが、今は書くなら私の言葉で書かねばと感じている。しかし本を書くための時間が私の人生に残されているのかどうか。
司書と私は壊れた自動人形が安置された部屋を出た。暫しの無言の後「伝説の篤学者よ、自動人形の弔いに力を貸してくれぬだろうか」と司書は学者のしわがれ声で言った。「先生、貴方の本を読み終えるまで待って貰えませんか。少し考える時間をください」と答えた。司書の中に設計された学者に向かって。
二百年前のことも昨日のことも同じ調子で語る人形を町の人が不気味に思うのも仕方がないことかもしれぬ。ましてや長く壊れていたのが急に蘇ったのであれば……。「学者が町はずれに図書館を作ったのは、防火のためだけではなく、私が町の人との接触を最低限に抑えるためでもありました」司書は言った。
「町の人は喜ばない?」「自動人形は人だった頃から長命です。眠る期間はありますが人形になってからはさらに長く活動します。町の人にとっては生き字引のような便利な存在でもあり、何代も前のことも克明に記憶している不気味な存在でもあります。一度壊れた自動人形が蘇ったら嫌だとは思いませんか」
だが、誰もこの自動人形たちを直せるように思えなかった。「司書さんは親御さんたちと話がしたいですか?」司書は「直ったとしても親が以前と同じ言動パターンを示すとは限りません。記憶と記録の中に親たちがいれば十分な気がしてきたのです。それに、自動人形が蘇っても町の人は喜ばないでしょう」
「しかし、考えがやや変わってきました。崩壊する本や、段々と本が減っていく本棚を見ているからかもしれません」自動人形の司書は言った。私は私で、壊れた自動人形たちをどうにかできるのかどうかを考えていた。工学博士、科学者、技術者、外科医、人形師、指物師――さまざまな人の顔を思い浮かべた。