超短編
あまりに美しいソプラノで、少年は薔薇を枯らしてしまったという。心を痛め、変声期を過ぎて高い声が出なくなっても歌は歌わなかった、と。何度も聞いた祖父の逸話。なのに私は祖父の子守唄をよく覚えている。二人きりの時だけ、祖父は温かいテノールで幼い私に歌を聴かせた。もう一度、聴きたかった。