一体、地球を何周したのだろう。見る度に皇帝ペンギンは大きくなった。
いつからか海水さえあれば生命を維持できる身体になっていた。もはや自分が動物なのか植物なのかもわからない。時折、海面に映る己の姿は、かつて陸地にいた頃の、やわらかい栗色の髪をなびかせた少女のままだ。たが、それは私の記憶が作り出す幻に過ぎないだろう。もしも少女の姿であれば、とっくに肉食の獣や凶暴な魚たちに襲われているに違いない。
私は破れることのない泡の中にいる。海流に乗って、地球の移り変わりを眺めている。暑い時には山脈と呼ばれた辺りを漂った。寒い時には、氷の隙間で永遠かと思われる時間を過ごした。
たくさんの生き物が滅び、生まれた。その間も皇帝ペンギンだけは巨大化を続けている。
海中を泳ぐこの鳥に皇帝の名を与えた人間を恨んでみたいと思うけれど、なぜか笑い声しか出てこない。
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