月が言う。
「ヌバタマ、空を飛んでみたいとは思わないか」
黒猫は高いところを厭わない。教会の屋根もするりと歩く。だが宙を浮いたことはない。月や少女に抱かれて持ち上げられた時以外には。
「空中散歩に出掛けよう。キナリには内緒で」
月の友人だというコウモリは小さい身体でやすやすと黒猫を爪に引っ掛け飛び立った。
[人は思いもよらないだろう! コウモリと黒猫が夜空を散歩しているとは]
黒猫は地に足が着かないことよりも、いくらか偉そうなコウモリの物言いが不愉快だった。
しかし、教会の屋根から見るよりも満月が大きく見えるような気がするので、文句は言わないことにした。
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