少女の後ろ姿を見て、尻尾を切られた黒猫は不審に思った。
〔キナリは熱を出してベッドの中のはずだ〕
黒猫は後ろ姿を追う。路地の路地、さらに路地を入る後ろ姿に、黒猫はますます訝しむ。もうここは、大人の街だ。
「あら、猫ちゃん、寄ってく?」
舌足らずな声と香水の匂いを振り切り、後ろ姿を追う。足が速い。黒猫も小走りになる。
はた、と後ろ姿は止まった。行き止まりだった。
振り返った顔は、やはり少女ではなかった。少女と同じ背格好の、老婆。
「ぬばたまの」
老婆が唱えると、辺りの灯りが蝋燭を吹き消したかの如く、すぅと消えた。
「翠玉に宿りし」
記憶はここで終わっている。どうやって本物の少女と尻尾の元に帰ったのかはわからない。
少女に言わせれば、この日以来黒猫のエメラルドの瞳は輝きを増したらしい。