僕が生まれたのは、運河の交差点に建つ石造りの家だった。
産婆さんは、東の町からボートを漕いで一人でやってきた。
南の町からはやってきたのはエンジン付きの小型船。粉ミルクの缶をたっぷり積んで。
西からは、装飾を施した船で高級洋品店のオーナーがやってきた。産まれたての僕を採寸するために。
北の町からは、僕のおじいちゃんとおばあちゃんが、水上タクシーに乗ってやってきた。チップはずいぶん弾んだそうだ。
僕の家は大小の船に四方を取り囲まれて、運河を行く船みんなに注目された。運河が渋滞すれば、隣の国もその隣の国も困ってしまう、わかるでしょ?
だから、母さんは産まれたばかりの僕を抱いて東西南北の窓の前に立たなければいけなかった。
「赤ちゃんが産まれたの! よろしくね!」
って。
十一歳になった僕は、毎日東西南北の窓に入れ代わり立ち、運河を行く人たちの伝言係をやっている。
「北の町の水門が故障中だよ」
「南の町は桜が咲いたってさ」
「東の町にサーカスが来てるんだって」
「西の町の科学者が、お嫁さん募集中らしい」
たぶん僕は、こうやって水と船と雲を見ながら、一生を終えるのだ、父さんがそうだったように。
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