瓶をお日さまにかざすきみの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
あの日照りの年、川は干上がり、井戸は枯れた。土はひび割れ、草原は火の気もないのに焼けた。
愛想のない缶に入った人工水が欠かさず配られたから渇きで死ぬ心配はなかったけれど、人工水はあくまでも水素と酸素の化合物で、無表情な缶以上に味気なかった。
きみが大切に持っていた硝子の瓶も、瓶の中の水も……そしてきみも。輝き過ぎの太陽の光を穏やかにして見せた。
「これはね、森の水なの」
森。僕は森を知らない。森はずいぶん昔に滅んだはずだ。そう習った。
「森は、どこにあるの?」
「この、瓶の向こうに」
きみは森を探しに、旅立った。瓶の蓋を閉めるよう、僕に託して。
たぶん、きみは森を見つけたのだろう、きみが旅立ってまもなく、雨が降った。さらさらと、細かい雨だった。
時々、懐から瓶を出してお日さまにかざす。あの日きみがやっていたように。
硝子は傷ひとつなく、水は澄んでいる。きみの姿を水の中に見ることはできない。
今年は酷い日照りになりそうだ。
僕は森を探しに行こうと思っている。
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