受話器越しのきみの声は思ったよりもくっきり聞こえて、少し鼓動が早くなる。目覚めちゃだめ。
「きみはどこから電話しているの? ……ぼくは夢の中なんだ」
「ぼくは海の中から。大きなガラスのコップを沈めてね、その中で今、きみの声を聞いている。とてもよく聞こえるよ」
海の底にいるきみを想う。コップの中にいるきみを想う。
なんて美しいんだろう。目覚めちゃだめ。
「こうして話していたら、すぐに酸素が、なくなっちゃう」
「そんなの構いやしない。だって、きみは夢の中なんだろう? きみの夢の中の海の底のガラスの中のぼく、さ」
「だけど」
「ガラスにヒビが入ったよ。水圧ってすごいんだね。だんだんと亀裂が伸びていく。きれいだ。きみも」
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