長い名の絵描きは酒が好きで、本当は酔っぱらいだ。
〔なぜその姿をキナリに見せない〕
「らって、キナリは怖がる、よ?」
だが、尻尾を切られた黒猫を撫でる手は、酒を飲んでいるときのほうが、ずっとやさしい。
「嫌われたくないんらもん、キナリに」
絵描きの手が放つ油絵の具の匂いに酔って、黒猫も饒舌になる。
〔キナリは、もう怖がらない。なぜなら、酔ったプキサを知っている。キナリは千鳥足のプキサを見かけたことがある〕
黒猫を撫でる手が止まる。
「でも、見せたくないんだろ。それがプキサのプライドだ」
こんな夜は、月も訳知り顔。
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