うまく声が出ない。何度歌っても掠れてしまう。
「わたしが教えてあげる」振り向くとよく日に焼けた女の子が立っていた。
女の子の声は大きな声ではなかったけれど、いとも簡単に風に乗った。
声も気持ちよさそうだ。
「もうすぐ来るよ……ヨッ!」
女の子は降って来たマーブル玉をキャッチした。
「丁寧に声を出さなくちゃ。大きな声だけ出しても駄目なんだ」
僕はもう一度歌った。
女の子のアドバイスを聞きながら声を出す。
時々掠れるけど、足元の草が震えて冷たくなってきたのがわかる。
一瞬、自分じゃないような声が出てびっくりすると、女の子が言った。
「そう! 今の声だよ! ホラ、見て! 風に乗ってる」
あんまり驚いてマーブル玉を掴み損ねた。
慌てて拾い上げると女の子の姿はなかった。
《Quena》