祖母の家に行くと、いつも小さな人形が働いていた。
祖母が若い時に作った、木の人形。
男の子か女の子かもわからないけれど、顔は祖母に似ているように思う。
祖母は、人形を長い時間かけて働けるようにしたそうだ。
魔法を使ったんだ、と祖母は笑いながら話した。
ようやく人形は働き出したのは祖母の背が小さくなるころだったらしい。うまくできている。
私が訪ねると、急がしそうにお茶を沸かしたり、お菓子を出してくれた。
人形の名前を祖母は教えてくれなかったので
私は「あの」だとか「ねえ」と言って人形を呼んだ。
人形は「ハイ」と言ってこちらに来てくれた。
私はその声と足音が好きだった。
だから用もないのに祖母の家に言って、用もないのに人形を呼んだ。
今、お誂えの小さな椅子に座っている人形に「ねぇ」と言っても返事はない。
人形を床に立たせても弾むような足音は聞こえない。
《Clarinet》