真夜中十二時の時報が、屋敷中に響き渡る。
而し、今は十二時ではない。もう随分前から時計は狂っている。
振り子がどんなに振れても、積もった埃を落とすことができない。
時刻を合わせるべき、埃を拭うべき主人は、この屋敷にはいない。
時計は自分が狂っているのを承知しているから、控めに十二回「ボーン」と呟くが、真っ暗な屋敷には容赦なく音は響く。
時計は窓の外の月を見る。正確には池に映った月を見ている。
「本当の月が見てみたい、外に出て月が見たい」
と時計は独りごちた。
その声は段々と大きくなり、そしていつまでも止むことはなかった。
《Cembalo》