懸恋-keren-
超短編
2003年3月28日金曜日
ろ
ろくに路銀も持たずに出掛けたのは六月の晴れた朝だった。
路面電車の車内は、ガラガラだった。
私は炉端で聞いた老人の昔話にロマンを掻き立てられて、飛び出したのだ。
大事な荷物は露天で買ったロイド眼鏡だけだった。
路面電車の次は、ロケットに乗った。
金はなかったが、ロケット内で働くことを許された。
私は労働者として優秀らしい。
以来、六百年間こうしてロケット内でロバの世話とロゴスの論考をしている。
論敵は魯鈍なロボットだ。
まったくこの私がロボットなんぞと論争するなんて……。
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