ビスケット色した蝋燭を見つけた。
「ねえ、これに火をつけようよ」
電気消してさ。きっと香ばしい時間を過ごせると思うんだ。
けれども、彼女はあっさり却下した。
「どうしても?」
「どうしても」
何故かって訊いても答えてくれないだろう。
きみには秘密が多すぎる。
年齢も、好きな色も、好きな食べ物も、僕は知らない。
そういえば、名前さえ知らない。
「都会のネオンはまぶしすぎるね」
僕は、きみがくれたビスケット色のマフラーを巻いて、出ていくことにした。四十六階から、階段を使って歩いて降りるつもりだ。
たぶんきみは僕を追いかけない。ビスケットがもうすぐ焼けるころだから。
きみがビスケットのこんがり焼け具合に、拘り過ぎなくらい拘っていることだけは、よく知っているから。