懸恋-keren-
超短編
2009年11月13日金曜日
禁止する看板
「……べからず」
看板はトタン屋根に引っ掛かっている。あちこち錆びていて、文字は最後の「べからず」しか判読できない。
風が吹く。嵐が近づいているのだ。
看板はトタン屋根の上で不恰好な宙返りを三回してから、電線に一瞬触れたあと、犬小屋の前に落ちた。また角がへこむ。
黒の犬がフンフンと検分してから、看板に小便を威勢よく掛ける。
看板は、生暖かい液体が錆びに染み渡るのを感じながら、己がかつて「立ち小便するべからず」ではなかったことを願う。
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