西日を受け、石庭の白砂が薄色に輝いている。普段は観光客で賑やかな方丈だが、今はとても静かだ。いささか静か過ぎる気がしないでもないが、ゆっくりと石庭に対峙できることを嬉しく思いながら、廊下に腰を下ろす。
石の上を軽業師のように飛び跳ねている子供がいる。庭に降り立っては、せっかくの箒目が台無しになってしまうではないか。しかし、箒目には足跡はひとつも見つからず、そんな私の疑念を見透かすように、子供は尚いっそう軽々と油土塀と石の上を軽やかに飛び回っている。
子供は時々ふと見えなくなる。やはり子供は幻かと思うが、またすぐにどこかの石の上に姿を現す。そういえば、方丈の廊下からこの庭の十五の石を全部一度に見渡すことは出来ないという。私から見えない石を承知の上で、飛び回っているらしい。その証拠に、しばらく隠れた後は必ずこちらを見遣り、悪戯っぽい顔で笑って見せるのだ。
小さな石にも大きな石にもぴたりと着地し、そのたびに石庭を見下ろす子供。それはまさしく大海原を見下ろす目であった。その小さな身体はしなやかで、美しく、厳かだった。
いよいよ日が暮れて、飛び回る子供の姿が朧に溶けていく。私は方丈の廊下から退く。方丈の中ほどに立ち、見えなかった石を見ると、子供が手を振っている。こちらもぎこちなく手を振り返す。
ノベルなび未投稿作品 龍安寺石庭