あまりにも居心地がよいので、もう十八年コーヒーをここで飲み続けている。窓から見る外の景色は随分変わったようだ。マスターと話すことは、とっくになくなってしまった。
ひとつ心配なのは、十八年分のコーヒーの代金が手持ちの金で払えるかどうかだ。この店にやってきた時、私は貧乏な学生で、財布に紙幣が入っていることは稀だった。
そして私は今、何者なのだろう。大学の籍は外されたはずだ。だが、そんなことはたいした問題ではない。店の壁には鏡があるが、私が十八年分齢を取ったようには、見えない。
店の中だけ、時間が止まっているのかもしれない。そういえば、七十年前の創業時の写真のマスターと今のマスターは、同じ人だ。