長い名の絵かきが、尻尾を切られた黒猫の肖像画を、月夜の中で描いている。
「夜なのに、ヌバタマの絵なんか描けるの? ピベラ・デュオガ・ハソ・ヘリンスセカ・ド・ピエリ・フィン・ノピメソナ・ミルイ・ド・ラセ・ロモデェアセ・スペルイーナ・ケルセプン・ケルセプニューナ・ド・リ・シンテュミ・タルヌヂッタ・レウセ・ウ・ベリンセカ・プキサは」
と少女は心配そうに訊ねる。
「暗いほうが、ヌバタマの緑色の目が綺麗だからね」
黒猫は油絵の具の匂いを嗅いでいた。描きはじめてから随分経つのに、まだ黒の絵の具の匂いがしない。
黒猫は伸びをする。本当に自分のことを描いているのだろうか。
「ヌバタマ、動いちゃだめ」
と少女が窘める。
「大丈夫だよ、キナリ。ちゃんと描けるから。でもヌバタマ、ぼくが見えるところに居ておくれよ」
できあがったのは確かに黒猫の絵だった。艶やかな黒い毛と冷たいエメラルド色の目を持つ尻尾のない猫の絵を、黒猫の尻尾はいたく気に入ったようだ。しきりに絵の中の猫の尻に触りたがる。