きみの向けた矢の先は、まんまるの月だった。
「届かないよ」
とぼくはいうけれど、きみには聞こえていない。
月に帰ったきみのお姫さまから、ぼくたちの姿は見えているのだろうか。見えていたとしても、愚かな男と笑っているに違いない。
「止せよ」
違う世界の人なんだからと続けようとしてやめた。もう散々いわれたことだろうから。
ふいにきみは矢を上から下へに向け変えた。水面に映る満月。
きみはいってしまうけれども、ゆらりと揺れるだけだよ……。
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500文字の心臓 第76回タイトル競作投稿作
○4 △2