2008年5月14日水曜日

白い手袋を

叔父は私と手をつなぐとき、必ず白い手袋をする。
若くして私を産んだ母の末弟である叔父は、私と十しか年が離れていない。私は叔父を「おじさん」と呼んだことがなかった。
「ねぇ、どうして手袋をするの?私の手が汚いから?」
と聞くと叔父は困ったような顔をして、汚いのは僕のほうだ、と呟いた。
叔父の手は汚くなんてなかった。指の長い、優しい手だ。
私はちゃんと手を繋ぎたかった。そして、私はその瞬間を待った。
トイレから出てきて、手袋をはめようとするのを遮り、私は叔父の手を強く握った。
それは、人の手を握っている感触ではなかった。見た目は、人間の手なのに、ぬるぬるとした別の生物の感触だった。けれども、私はその手を離さない。特に理由はない。気持ちよかっただけ。