2005年8月7日日曜日

「パビムン!」

私がその町に入ったのは、夕方だった。
石作りの家々が並ぶ細い路地を歩くと、夕飯の匂いがあちこちから漂ってくる。
私は空腹を意識せずにはいられない、
小さな食堂を見つけてドアを開けた。
「パビムン!」
と奥から出てきた娘が言った。
私が何も言わずにいると、娘はもう一度「パビムン」と言い、空いている席を指した。
私が席に着くと、隣の髭面の男が私に笑顔を向けて「パビムン」と言った。
私は「パビムン」と言った。挨拶ならば同じ言葉を返せばいいだろう。
男は満足そうに頷き、食事に戻った。
私は充分混乱していた。
この国の挨拶は「ヤッチラ」ではなかったか?
「パビムン」初めて聞く言葉だ。あとで辞書を引いてみなければ。

娘がメニューを持ってきた。
メニューは「ラタトゥーユ・パンかライス」とある。
ラタトゥーユ、夏野菜のトマト煮だ。それでいい。
私が「ラタトゥーユ」と言うのを遮るように
娘は「パビムン? パビムン、パビムン」と言う。
私はライスの文字を指しながら「パビムン」と言った。
ラタトゥーユは旨かった。