バス停に向かうと並ぶ傘の中にひとつ、桜色の大きな傘がいた。
台風が近づいた暗い朝の中、そこだけふんわりとしている。
……こんなに淡くはかなげな色の傘は、雨の日に使うのが勿体ないようだな。
桜色の傘の持ち主は、立派な白髭のおじいさんだった。ぼくは、おじいさんの後ろの席に座り、通路側の手で握られた桜色の傘を見つめていた。すぼまった桜色の傘から滴る水は、なんだかとてもきれいだ。
バスを降りる時、おじいさんは振り向いてぼくに笑いかけると、桜色の傘でぼくの黒い傘をちょんと突いた。
黒いぼくの傘は、見る見るうちに桜色に染まった。
【桜色 C0M7Y3K0】