パビムンが家に帰ると、扉に顔が付いていた。
「パビムン、おかえりなさい」
顔は美しい女の顔で、声は鈴のように軽やかだった。
顔は玄関の扉だけではなかった。
便所の扉にも顔はあった。
「お腹の調子はどう? パビムン」
冷蔵庫の扉にもあった。
「お野菜もたくさん食べてね」
寝室の扉にもあった。
「おやすみなさい、パビムン。いい夢を」
まもなく、あらゆる扉に顔があるわけではないと気付いた。
パビムンが開け閉めする扉に現れる、のだ。
パビムンは、顔に恋をした。
扉の顔に話し掛け、キスをするようになった。
顔は、しっとりと応えた。
しかしすぐに不満になった。
顔と声では足りなくなった。
手や胸や腰に触れたいと思った。
パビムンは、扉の顔を持つ女を探す旅に出ることにした。