2005年3月29日火曜日

お月様とけんかした話

「ヤ」
月がおさげ髪に触れるのを少女は拒んだ。
少女の髪は腰の近くまである。色は薄く、毛は細く、くせがある。
「どうして?」
「いやったら、嫌なの!」
「珍しいな、と思ったのだ。キナリがそうして髪を結っているのを、はじめてみたから」
その長い髪を特別に手入れしているようにも、執着があるようにも見えないが、彼女のたたずまいの半分は、長い髪が作ったものである。
「うまく出来てるじゃないか。よく見せてみな」
「だめ」
「だからどうして?」
「……おじいちゃんがしてくれた」
少女は祖父の顔を写真でしか知らない。