「八ヶ月ぶりになるかな、元気だった?」
ぼくはオーバーのポケットにそっと左手を入れて呼び掛けた。
舞姫の動きは、まだ眠たいのか、けだるそうだ。
その動きはぼくの手に優しく伝わる。
ぼくはこの舞姫を見たことがない。
ぼくの手の周りを時に激しく、時にゆったり舞う。
ぼくは何度も掴もうと試みたが、小さな小さな舞姫は見透かしたように指の間を擦り抜けてしまう。
手に感じる動きで舞姫が目覚めてきたのがわかる。
はらりひらり、と舞姫の衣の裾がぼくの指を掠めていく。薬指、人差し指、小指……。
だんだんと左手が熱を帯びてきた。
今年も悩ましい冬がやってくる。