2004年8月26日木曜日

受胎命令

妻が編んだセーターは焦げ茶色の毛糸で丁寧に編まれ、申し分なかったが、なぜか腹に大きなポケットが付いていた。
「なんだい、これは?まるでカンガルーじゃないか。せっかくだけど着られないよ」
「気に入らなかった?でも無理にでも着てもらわなくちゃいけないのよ」
 私たちは深い夜を過ごした。珍しく妻からの要望で。
受精に初めて成功した。
胎児はあなたが育ててね、と妻は言った。
「はい、このセーターで大丈夫に育ててね」
「タツノオトシゴじゃあるまいし」
私の嘆きをよそに、妻は幸せそうだ。