2019年1月29日火曜日

衣衣の別れ

金属のフォークとナイフが食器にぶつかる音は、木製のそれにしか聞こえなかった。
初めはちぐはぐに感じたが、次第に心地よくなっていく。
久しぶりに、酒を飲んだ。躊躇したが、美しい人が「大丈夫ですよ」と言うので、飲んだ。
背中の消えず見えずインクのあたりが疼くような気がしたのは、たぶん心理的なものだ。

温かい食べ物と、久しぶりの酒で、知らぬ間に眠っていたようだった。食事の前にも長く眠ったはずなのに。
眠る美しい人の顔が、目前にあった。
唇が触れそうなほど近くても、やはり美しかった。
いや。そうだ。眠りに落ちる前に、この唇には実際に触れたのだ。

この人に、気を許し過ぎたかもしれない。
旅の終了は、自ら決定してよいことになっているが、やはり、まだ早いのではないか。
床に落ちた服を集める。おおよそ服とは思えぬ、衝撃音がした。
一部始終を見ていたであろう赤い鳥は、じっとそれを聞いている。