「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」
繰り返し赤い鳥が朗々と啼いているが、それらしき人は現れない。
「もう、いい。少し静かにしたい」と呟くが、赤い鳥はお構いなしのようだ。
この街に出てきたときの鳥籠にも行ってみたが、「もう役目は終えた」と言わんばかりの朽ち果てようだった。青銅色はその憂いを強くし、鳥籠のつなぎ目は緩み、今にも崩れそうだ。
そういえば、いままで同じ通りばかり歩いている。東西南北はよくわからないが、この通りを直角に貫く道を歩いてみることにした。
角を曲がると、ビルも道も青銅色に違いなかったが、何故か少し景色が明るく見える。
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を然るべき儀式で送る者はおらぬか!」
二十三回目の赤い鳥の台詞に、前を歩く人がこちらを振り返った。この街の人にしては、頬が赤い。