ただただ、街を見下ろしていた。寒々しいと思っていた街が、こんなにも鮮やかだったとは。
すれ違う人、スープをごちそうしてくれた夫婦に、謝りたくなった。もっと笑顔で受け答えすべきだったように思ったのだ。次の場所では、きっと。そこがどんなに暗く寂しいところでも。
「行きますか?」
との言葉に頷いた。精一杯の笑顔で。
その人は服をまくり上げ、背中の消えず見えずインクを剥き出しにすると、後ろから抱きしめてきた。少し驚くが、撫でられた時以上に温かく、どこか安心した。そういえばこんな風に人と触れ合うのはずいぶん久しぶりだったのだ。
そして、そのまま飛び降りた。
ビルの谷間を墜落していくと、また街は青銅色になったけれど、もう寒くはなかった。