「まさか、貴方が……」
美しい人は、ほんの一瞬だけ、少し寂しそうに笑った。
「この街には、長く滞在しているのですか?」
「ええ、四度の『転移』でこの街に来ました。それから、二年ほどこの街に居ます」
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方は、二度の転移を完遂された!」と、赤い鳥が代わりに叫んだ。完遂という言葉はおかしい気もしたが。
「そうです、この街はまだ二つ目で、なにが何やらわからないことが多すぎる。前の街では色彩が狂いました。ここでは耳が変になったようです。貴方は何か変調をきたしませんでしたか?」
久しぶりにまとまった量を喋った気がする。声がおかしく聞こえるのは、この街のせいだけではないかもしれない。
「そうですね、そういう旅なのです、我々が課せられたのは」
美しい人は、多くを語らない。語れないのかもしれない。
「食事を用意してあります。一緒に如何ですか?」
と、美しい人の部屋に招かれた。