「ゆめをみるためのめがねをください」
と、人間の男の子がきつねの雑貨屋さんを訪ねてきました。
たしかにきつねの店にはおかしなものがたくさんあります。願いが叶わない四つ葉のクローバーとか、一秒が長すぎる懐中時計とか、雨が大嫌いな長靴とか。
「なんだって、そんな眼鏡が欲しいんだい? 眠れないのかい?」
きつねは男の子に尋ねました。
男の子は違うと言いました。決して眠れないわけではないのだと。ただ、生まれてこの方、五年間「夢」を見たことがないというのです。
「そりゃあ、おかしいな」
きつねはニヤリとしました。そして「ちょっと待ってな」と言い残して屋根裏に行きました。
男の子が夢を見ていないはずがないのです。こんなきつねの店、人間は夢でも見てなければ来られないのですから。でもせっかくなので、きつねは男の子に眼鏡をあげようと思いました。昔々、この店によく来ていた人間のおじいさんの老眼鏡です。きっと屋根裏にあるはずです。あれなら男の子が欲しい「ゆめをみるめがね」にうってつけだときつねは思いました。
「ああ、あったあった」
丸い鼻眼鏡のレンズに「はぁ」と息を吹きかけて尻尾で丁寧に拭くと、曇っていた眼鏡はぴかぴかになりました。
屋根裏から降りると、きつねは眼鏡を男の子に渡しました。
「はい、178円だ」
男の子は小さな緑色のお財布の中身を全部きつねのてのひらに乗せました。ぴったり178円です。
さっそく、おじいさんの老眼鏡を掛けた男の子は言いました。
「あれ? おじさん、きつねじゃなかったの?」
おやまあ、あのおじいさん、ずいぶんな眼鏡を遺したもんだ、きつねは苦笑いしながら言いました。
「さて、帰ってゆっくりおやすみ。目が覚めたら夢がどんなものかわかるはずだよ」
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