恋は、わたしの身体を切実にした。自分の体内に、こんなにも疼きが潜んでいるとは、知らなかった。彼を見た日の夜は、いつにもまして眠れない。あの声で、あの指で、身体中に触れて欲しい。
いよいよどうしようもなくなると己の手を動かしはじめる。けれども、この指は木偶の坊だ。胸をつついても、腿を撫でまわしても、なんの慰めにもならない。
彼は虫、とりわけ蝶々が好きらしい。
「大きくなったらカラスアゲハになりたいと思っていたんだ」
と言い、周りにいた友人たちにからかわれていた。
それを見て、蝶々を手に入れようと決めた。山椒の葉から青虫を採ってきて、育てた。彼の名で呼び、餌は肌の上で食べさせた。そのせいで皮膚はずいぶんかぶれたけれど、構わなかった。彼が触れた証だから。
まもなく彼は骨盤の右側あたりで蛹になり、そして蝶々になった。
今夜も餌をやるために、わたしはベッドの上で膝を立てる。彼は乳首に舞い降り、脇腹をゆっくり伝い、そして蜜を吸いにくる。わたしの出す蜜がよほど甘いのか、彼は口吻を深く突き刺す。
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500文字の心臓 第66回タイトル競作投稿作
○4△1×1