懸恋-keren-
超短編
2007年5月29日火曜日
メビウスの輪に唇を
愛しい人の唇がメビウスの輪の中に迷い込んだ。
「どうして、よりによってメビウスの輪の中に唇を放すの!?」
愛しい人は唇のない顔で、哀しそうな、恥ずかしそうな表情をしてみせる。
キスがしたいのに。
こんな時に愛しい人に唇がないなんて。
メビウスの輪に舌を這わせる。舌はいつまで経っても唇の居るほうにたどり着かない。
ぐっと力を込めて輪の中に舌を突き出す。愛しい人の唇を舌先に感じたけれども、それはほんの一瞬掠めただけだった。
わたしの舌はメビウスの輪に絡め捕られた。
次の投稿
前の投稿
ホーム