ぐっと手首を掴まれた。顔を上げると、ニカッと笑った彼がいた。
掴まれた手首が痛い。たぶん彼はそんなに強く握っているつもりはないんだろう。男の子はみんな、こんなに強引に力強くヒトの腕を掴むの?
「……細いのなぁ、腕。ちゃんと食べてる?」
そのまま私をひっぱるように、彼は歩き出した。
別に私はひどく痩せているわけじゃない。
私が男の子に腕を掴まれたことがないように、彼も女の子の腕を掴むのは初めてなんだ、たぶん。
「このお釣、おまえのだろ?」
自動販売機の前に立つ。あぁ。そうか。私は彼に掴まれた腕と反対の手に買ったばかりの缶ジュースを持っているのだった。
「今日はずっと、ボーっとしてるよ、どうかした?」
そうだね、たしかにおかしい。千円札で買った缶ジュースのお釣をすっかり忘れてしまうなんて、ありえないよね。
そして手首の痛みとともに初めて気付く。彼が私を一日中見ていることを。
あぁ私の想う人がこの人だったら、無邪気に心躍っているのだろうか。
私の目は、彼の肩越しにもっと遠くを彷徨う。いた。いやだ、こっちを見ないで。
腕を振りほどいて早足でその場を離れる。またお釣を取るのを忘れた。