2007年5月11日金曜日

花ニ溺レル

 街灯の少ない夜道を歩いていると、強い芳香に目眩がした。この時季は夜でも花が強く香る。俺は花に詳しくないから、何という花が香るのかわからない。或いは何種類もの花の香が混ざりあっているのかもしれない。
 香りはどんどん強くなり、目眩は酷くなる一方だ。意識も朦朧としてきたようだ。ちゃんと家に帰る道を歩いているのだろうか。
 ついに花の香りたちは、俺の身体を弄び始めた。耳をくすぐり、爪の間に侵入する。襟や袖からもたやすく入られ、毛を撫でていく。
触れないはずの「香り」がまとわりついて離れない。
 脊髄に熱が走ったかと思うと、ようやく花の香りから解放された。足元には、多量の白く輝く花びらが散らばっていた。