2006年11月28日火曜日

切り傷

冷たい風が、頬を切る。でも私は歩くことしかできなかった。
コートの襟をぐいと合わせて、ただ歩いた。
コーヒーが飲みたいな。
頭の中で呟いたつもりだったのに、大きな声で言っていた。
「じゃあ、喫茶店に入ろう」
と強引に喫茶店へ連れ込まれた。この人は、たぶん私の頬を傷つけた北風だ。あんなに冷たい風が吹いていたのに、窓の外は穏やかに晴れているもの。
ゆっくりコーヒーを飲む北風氏の指に触れてみたかったけれど、指を絡めたらきっと私の指はまた血だらけになってしまう。
だから歩いていたのに。何度傷つけられたら気が済むのだろう。