鼻に人参を生やしていたら、家に帰れない。母さんに何言われるだろう。
僕は近所の公園のベンチで顔を覆って途方に暮れていた。
「どうしたの?」
お向かいの四歳年上のミサちゃんが声を掛けてくれたら、なおさら顔を上げられない。
「ねえ、顔あげて……食べてあげるから」
思いがけない申し出に、僕は思わず顔を上げてしまった。
ミサちゃんは何も聞かなかった。黙々と僕の鼻に生えた人参を食べていた。
僕は少しづつ近付いてくるミサちゃんの形のいい鼻を見ていた。
僕の眉間にミサちゃんの鼻が触れたのと同時に、鼻の穴と穴の間をペロっと舐められた。
「帰ろうか」
人参はなくなったけど、僕はまた顔が上げられない。